2005/07/05 ■ 雨のあしおと(サスカカ・16×30)
ぱしゃぱしゃとカカシの靴に水滴が跳ねる。
7月に入ってからも飽きることを知らないように降り続く雨は、
今日も地面を潤している。
一瞬、サスケの傘を持つ手が揺らいで、
カカシの肩を雨がぽつりぽつりと濡らした。

「ほんとはさ」
「うん」

カカシの穏やかな声にサスケが応えて、それからまた雨音が響く。
まだ自分より少し背の高いカカシから傘を奪い取って、サスケが傘をさした。
カカシは大人しく傘に収まって、そっと右手でサスケの左袖をつかんでみる。

「雨が降ったら、一度こうやってサスケと歩いてみたかった」
「うん」

今日は休日で、二人は薬草を摘みにデートを兼ねて
あまり人のやって来ない山中へと入っていた。朝はまだ、晴れていたのだ。
一刻ほど前に雨が降り出してから、カカシとサスケは、
一般人がそうするように傘をさしてゆったりと山を降り始めた。
里中へと続く雨の山道には二人のほか誰も歩いていない。
ぱしゃぱしゃと雨を蹴る音が二組だけ響く。

「…オレも」

ややあってサスケが口を開いた。

「ホントは、雨が降るたびに」
「うん」
「こうやって、歩けたらって」

言うなりサスケはカカシの後ろに回り込んで、
左手で傘を差したまま右手でカカシを抱き込んだ。
その体勢にカカシが吹き出して、つられてサスケも笑顔になる。

「ふ、歩け、ないじゃん」
「笑うなよ」
「どうやって歩くのよ、こんなんで」
「こうやって」
「…歩きにくい」
「で、こうやってたまにキスしたりして」

出し抜けにサスケがカカシの頬に後ろからキスをした。
カカシが驚いたように息を飲む。
それは、この間の夜に二人が見たビデオ映画の中のキスだった。
映画の中の美しい男女のカップルは、街中で人目を憚ることなく、
一本の傘の中でじゃれ合っていた。

「それで、怒られたりしてな、いい加減にしろって」
「…ナルトあたりに?」
「そうそう」
「………」
「カカシ」
「………」
「…泣くなよ」

ぱしゃぱしゃと靴が雨を弾く音が止んで、傘の中の体が先ほどよりも近付いた。
自分より少し高い位置にあるカカシの、俯いてしまった頬を引き寄せて、
サスケは愛おしむようなキスをした。

あんたは怒るかもしれないけど、
サスケは雨で煙る視界をまっすぐ見つめながらまた歩き出す。
オレは、これでいいんだ。
あんたが死ぬ時はきっと側にいて見届けてやれる、
だって同じ現場任務に就く男の忍だから。
オレが死ぬ時はきっとあんたが見届けてくれる、
だってオレが死ぬかもしれない任務なんて、
写輪眼が揃って駆り出されてるに決まってるんだから。
死に際を見届けられる恋なんて、悪くないだろ?

「なぁ、家帰ったらさ、また映画見ようぜ」
「いいけど、何見るの」
「昨日新しいの借りてきたから、それ」

まだ雨はざあざあと降っている。
サスケは左手で傘を差して、右手を背中に回した。
カカシの右手がサスケの背中に伸びてきて、そっとサスケの右手を握った。

ぱしゃぱしゃと足下で水音がして、二人の足を雨が撫ぜていった。