2005/05/17 ■ 恋の祝福(サスカカ・18×32)
今日はナルトとサクラの結婚式だった。
オレは、サスケと共に着慣れないタキシードなんか着て、
二人の祝宴に参加した。
ナルト------六代目火影は、すっかり大きくなった体で華奢な(でも馬鹿力の)
花嫁を抱き締めて、とても幸せそうに笑っていた。
火影の結婚式ということで、午前中には慣例に則った儀式が行われたが、
夜は言い出したら聞かないナルト(この辺りは里長になろうが相変わらずだ)が
企画した「無礼講」が開かれた。
オレは久し振りに酔うまで酒を飲んで、
隣のサスケに「飲み過ぎるなよ」とかなんとか小言を食らった。
でもそんなサスケも、いつの間にか顔を赤くしていた。
同じ班で生死を分かち合った仲間が新しい家族を築く誓いを立てて、
幸せそうな顔をして笑っている。
少し前まで「仲間」だったサクラを、これからは「家族」として愛していくのだと
誇らしそうな顔でナルトが言って、オレは何だか自分まで誇らしくなった。
嬉しくて幸せでオレはどんどん酒を飲んだ。
隣のサスケは、相変わらずあまり言葉を発しなかったけれど、
顔を見ると大体同じようなことを考えているのが分かった。
おめでとう、ナルト、そう言ったら「ありがとう、カカシ先生」って笑顔で返されて、
オレはますます幸せになった。
人のことでこんなにも幸せになれること、それは不思議な感覚だった。


「いい結婚式だったねぇ」
帰るなりドサリとソファに倒れ込んだオレに、
サスケが「皺になるからさっさとタキシードを脱げ」とか何とか
ぶつぶつ言っている。
酔っててもこの辺の細かさは相変わらずだ。
そしてオレも、相変わらずということで小言は無視することにした。
サクラの「ブーケ投げ」とは別に、記念に、と渡してもらったテーブルブーケも
オレはソファに放り投げた。
すると、サスケは黙って花瓶を出してくれた。よくできた小姑だ。
「サクラ、綺麗だったなぁ」
オレがそう言うと、隣に腰を下ろしてきたサスケは、
ふっと優しそうな顔で遠くを見て、そうだな、と笑った。
オレはそれが少し面白くなくて、黙ってサスケを抱き締める。
サスケは面白そうな顔で「なんだ?」と言ってオレの頭を撫でてきた。
なんだ、じゃないよ、バーカ。
「結婚式って、いいな」
「…そうだな」
「沢山の人に祝福されて」
「うん」
「幸せだね」
「…ん、そうだな」
サスケの腰を抱き締めたままぼんやりと呟くオレに、
サスケはオレの頭を撫でながら優しいテノールで返してきた。
オレの頭を梳く手はもう大人の手だ。
「結婚」
「うん」
「いいね」
「うん」
それ以上はオレもサスケも何も言わなかった。
オレはサスケに抱きついたまま目を閉じた。
でも、サスケが優しげな顔をしているのが分かる。
サスケの手が気持ちいい。オレは少し酔っている。
「ね、サスケ」
「なんだ」
「オレ酔っぱらいだからヘンなこと言うけど」
「安心しろ、あんたは素面でもいつでも変だ」
なんだと、どうでもいいけど最近ちょっと生意気すぎないか、お前。
でもオレは、自分の酔いが覚める前にと先を急いだ。
我ながら、素面だとこんなことは言えないのだ。
「結婚式しようか、」
「うん?」
「オレとお前」
「………」
サスケが何か言う前に、オレは立ち上がって冷蔵庫を開けた。
それから、昨日スーパーで買ってきた号数の違うケーキを3つ取り出す。
大・中・小と3種類、円形のケーキを買ってきたのだ。
「おいカカシ、なんだそりゃ」
「いいからいいから」
不安そうな顔をしているサスケの前で、
オレは3つのケーキを順に重ねていった。
一番大きなケーキの上に中くらいのケーキ、その上に一番小さなケーキ。
木の葉スーパー製の即席3段重ねケーキの完成だ。
「これ、ウェディングケーキ」
「………」
「で、一緒に切ろう、ナイフで…あれ、ナイフないや。クナイでいいか」
「…待て!オレが探して来るから、クナイはよせ!!」
何故か必死に止めるサスケがキッチンに消えて、しばらくしてから戻ってきた。
サスケが握っていたのは、パンを切るための
ノコギリみたいな細長いナイフだった。
「ノコギリみたい」
「クナイよりマシだ。で、どうするって」
「うん、これを一緒に持って、」
そう言ってナイフを握ったオレの手にサスケの手が重ねられる。
ごつごつとして固い、大人の手だ。
もう十分に女を守ることのできる、男の手だ。
「ハイ、切るよ。お二人の初めての共同作業です」
「お二人って、なんだそりゃ」
サスケはプッと吹き出しながら、一緒に握っているナイフに力を入れてくれた。
少しずつ、ケーキが切れてゆく。
白い生クリームが甘い匂いをさせながらふわりと揺れた。
バカなことをしていると思う。
こんなこと、誰に祝福されているわけでもないのに、二人で。
でも、オレは今幸せだからいいんだ。
サスケもきっと、幸せだからいいんだ。
「では、指輪の交換です」
「なんだそのいい加減な段取りは」
こんな酔っぱらいの遊びにもいちいち眉を顰めるサスケに、
オレはやっぱり笑ってポケットから小箱を取り出した。
「ハイ。こういうのオレ嫌いなんだけど、オレ酔ってるから」
「…嵌めてくれ」
ちょっと泣きそうになってるのをごまかすようにオレは茶化したのに、
サスケは真剣な顔で左手を差し出した。
オレがその手をぼーっと見ていると、サスケは、
早く、そんな目でじっと見つめてくる。
その目があんまり優しそうで、オレはやっぱり泣きそうになった。
「…あの、遊びだから」
「…別にそういうことにしといてやってもいいけど。
遊びでSランク一回では買えないような指輪買って来んのか、あんたは」
サスケはオレの顔を見ないようにそんなことを言って、
それから早く嵌めろとオレを急かした。
「…ん、よしよし、ピッタリ」
「うん」
シンプルなリングはぴたっとサスケの指にきれいに嵌った。
オレはそれをぼーっと見つめていた。
「カカシ」
「ん?」
ぼーっと指輪を見ていると、サスケがいきなりオレの体を引いた。何だ?
「カカシ」
「ん?んーーーーーーーーっっ、ん、……ん……」
サスケは突然オレの体を抱え込んで情熱的なキスをしてきた。
それはもうラテン的なキスを。
アルコールで熱いままの舌を差し入れられて
ベロベロと舐められてそのまま腰を撫でられて、
オレは合わさった唇から溶けてしまうかと思った。
それでもまだ足りない、とでも言いたそうに、
サスケはオレをソファに押し倒して、
ぐちゃぐちゃになったシャツの裾から指を差し入れてくる。
「カカシ」
ひやりと肌に冷たい感触がして、
それが先ほど贈った指輪なんだとオレはぼんやり気が付いた。
「カカシ」
サスケは幸せそうな顔をしている。オレも幸せそうな顔をしていると思う。
オレ達には大勢の人を招いて結婚式とか、できないんだけれど。
「うん、サスケ」
でもこういうのも、悪くないと思う。悪くないと思うよ。
オレは体も硬いし子供も産めないけど、稼ぎなら里の誰にも負けないし、
顔だってスタイルだってそんなに悪くないと思う。
「サスケ、オレ、お前のこと幸せにしてあげるよ」
浮気だってしないし料理はうまくないけど掃除は好きだし、
セックスだって悪くないと思う。サスケのことを幸せにできると思う。
「バカ、オレが幸せにするんだ」
サスケは破顔して爽やかな笑顔で言った。とても一晩に3回も
焦らしプレイ中心でしつこいセックスをしてくるとは思えない男前な顔だ。
でもオレはそんなセックスでさえも気に入ってるんだ、
それがサスケの与えてくれるものなら何だって。
「これから未来永劫」
「誓います」
「アホか、省略しすぎだ」
オレは酔ってるんだ。だからこれは遊びなんだけど。

でもオレは幸せそうな顔で笑ってサスケも幸せそうな顔で笑った。
サスケの左手の薬指に嵌ったリングが光って、
オレはサクラの薬指の指輪を思い出した。
サスケに嵌めてやったリングは、
あんなに誇らしげな派手なものではないけれど。
でもきっと、おなじ光りかたをしていると思うんだ、
だってこんなに幸せなんだから。

オレがサスケにキスをすると、
サスケは自分の鼻でオレの鼻をちょっとこすってから可愛い顔で少し笑った。
あ、かわいい、と思っていたら全くもってかわいくない獣みたいなキスをされた。

いいんだ、大声で叫び出せる恋じゃなくてもいいんだ。
オレもサスケも幸せなんだから、この恋はこれでいいんだ。

オレはまた笑って、
オレの服を脱がすことに夢中になり始めたサスケの髪に
かるくキスをした。

ナルトの結婚式でもらったブーケの花がちょっと揺れて、
おめでとうって言う声が聞こえたような気がした。