■ 蜜月(ナルカカ・17×31)



彼を思うこころが体の反応を引き起こしたのはいつだったのか。
そんな体の衝動は生まれて初めてで、
けれどその衝動は普通女の子に対して持つものだと何となく知っていた。
たとえば、サクラちゃんみたいな---------------間違っても、男性に、担任の教師に…
いや、上司か…、そんな男に、14も年上の男に抱くものではないということは
何となく分かっていた。
けれど体を貫いたその衝動と共に脳内に描く映像ときたらどうだ、
俺は組み伏せているのだ。
俺よりも長身の男を、
柔らかくもなさそうな痩躯を。
14も年上の男を、
尊敬する自分の上司を。

引き倒して布を破り捨てて、顔を覆っているマスクも左目を隠す額当ても毟り取って、
そうして自分の猛りを捻じ込みたい。
捻じ込んで泣かせて鳴かせて滅茶苦茶にしてやりたい。




どうだ、この衝動は、俺はおかしくなってしまったんだろうか?

 

カカシの背中の下で、シーツがせわしく音を立てる。
覆い被さってきたナルトは顔をカカシの首筋に埋めて、
何度も何度も首筋に舌を往復させてはたまに噛み跡を付けた。
カカシの腰に甘い痺れが走って、カカシは思わず腰を浮かせる。
けれど浮かせた腰を乗り上げたナルトの体ががっちりと押さえつけ、
彼は今度は耳元に唇を寄せる。
ナルトの舌がカカシの耳を舐める度に濡れた音が大きく響いて、
その音はまたカカシの腰を震わせた。
意識がその音の中に攫われていく前にと、カカシは混濁していく頭を叱咤して声を出した。

「ナルト、ナルト、ゴム…」
「………」
「なぁ、ナルト、そこに入ってるから…抽斗の一番上…」
「………」
「ナルトってば、ゴ…」
「うるさい」

ぴしゃりと撥ね付けるように答えたナルトは、相変わらずカカシの耳元に唇を寄せたまま、
けれど彼は押さえ込んだ体に屹立した自分を埋め込もうとしていた。
首筋を、耳元を愛撫しながら、同時にナルトが丹念にほぐしていったカカシのそこは、
やわらかにほどけて既にナルトの指を3本飲み込んでいる。
このままナルトが押し入っても、受け止めるに十分なほど、カカシの体は潤んでいる。

「なぁ、ナルトってば、ヤだよ、…」
「………」
「ナル…あっ!」

さらにカカシが言い募ろうとした矢先、カカシの中に埋め込んでいた指を
意地悪くナルトが動かした。もう、覚え込んだ指の動きで、
指だけで追い上げてしまおうとするように、ナルトはどんどんとカカシを責める。

「あっ、あっあっ!や、だ、って、…待って、待、あっ」
「せんせ」
「あ!」

いきなり指が引き抜かれて、そう思うと息つく暇もなく、
カカシはナルトの雄身を体に受け入れさせられた。
熱く大きな楔を、一度に深々と差し込まれて思わずカカシは息を止める。
カカシの喉が引き攣れたような音を立てて、ナルトがそれを宥めるようにカカシの肩を舐めた。

「せんせ」
「なる…ナルト…っ」
「熱い……」

満足そうに息をつくナルトの下で、カカシは目が熱くなってゆくのを必死に堪えていた。
奥深く差し込まれたナルトを締め付けて余計にその存在を感じて、
思わず甘い声を零してしまう。
それが情けなくて、とうとうカカシの目からほろりと涙が零れ落ちた。

「なんで、ゴム、付けてくれないの…」

言ってからカカシはしまった、と思った。
なんだこの情けないセリフは。男に縋る女のようではないか。
なんで付けないのか、と普通に疑問形にすれば良かったのに、口をついて出たのはこれだ。
更に情けないのは、そのセリフが今の状況に全く相応しいことだ。

「ゴム、つけて、ナル……っ、あっ、あっあっ…!」

それでも再度口を開いたカカシを、うるさいとばかりにナルトが腰で抉った。

「いらねぇだろ、そんなん」
「だってお前、女の子とする時は、つけ…る、で、しょ!」
「カカシ先生女じゃないだろ」
「でも、お前、…っ、あ、あっ、んん、ん…」
「っ、別に子供できるわけじゃなし」
「あっ、あ、…」
「ないほうが気持ちいーし」

言ってナルトは明るく笑って、そうしてカカシの気持ちをどん底に突き落とした。
普通、男同士のセックスでコンドームを使用しないのは危険だが、それは常人の話だ。
ナルトの体はその体内の九尾の故に少し普通の人間とは異なっているから、
あらゆる傷を受け入れない。菌だって受け入れないのだ、だからカカシの体内に
生身で突っ込もうとどうということはない。雑菌に冒される恐れは、ナルトに限ってはない。
カカシはというと…粘膜は傷付きやすいが、そんなものコンドームを付けていたって
傷付く時は傷付く。逆に付けていなくても、十分に潤いを与えて準備を怠らなければ、
生だから特に傷ができやすいというのでもない。
中で射精されたりすると腹を下す恐れがあるが、でも出されなくても
突っ込まれすぎれば腹を下すし、射精されようと後始末を間違えなければ、
毎回腹を下すというものでもない。
それではこういう場合のコンドームの役割はどういうことなのかというと、それは気遣いだ。
相手の体を思いやるのはセックスの基本で、
それを手段にするとコンドームになるはずなのだ。
あなたの体を気遣っている、(そして自分の体も気遣っている)
そういう、サインになるはずなのだ。
それにナルトは毎回カカシの中で出してしまう。その後始末のことを思うと、
やっぱりカカシはきちんとゴムを付けてほしいと思う。
だからセックスの度にナルトにゴムをつけてくれと口に出すのに…
ナルトは全く聞こうとしなかった。

「っあ!」

出し抜けにナルトがカカシの両足を掴んで限界まで開かせて、
繋がったままの箇所を電灯の下に曝した。
そう、最近のナルトは灯りも消してくれない。

「ちょ、やめろ、ね、ナルト!」
「やめろとか言って」
「ねぇ、ほんとに…い、や、」
「じゃ、ないんだろ、硬くなった」
「やだって……」

最後のほうはほとんど泣き声になっているのに、そんなカカシに構わずナルトは嬉々として
繋がった箇所を覗き込んだ。途端に面白いぐらいに肩を震わせて嫌がるカカシを、
嬉しそうに覗き込む。そんなナルトに唇を噛みながら、カカシはますますの羞恥で赤くなる。

「なんで、こんな…お前、女の子にする時は、」
「女の子にする時は、何だってば?」
「もっと……優しいって……」

言ってしまってから情けなさがピークに達して、カカシはとうとう嗚咽を上げ始めてしまった。
流石に悪いと思ったのか、ナルトは覗き込む顔を優しげに変えて、
カカシの頭をあやすように撫でる。

「先生ってば、よく知ってる」
「よ、く、聞く…から…」
「…ふぅん」
「お、んなの、こと…、っ、する時は、ゴム…だ…て、つけ、…っるって」
「そりゃ、孕ましたら困るだろ」
「でんき、も…」
「消すよ」
「なんで、俺は、…」
「せんせー女の子みたいにしてほしいの?」

からかうように言われて、こんなに平らなのに、と笑いながら胸を舐められて、
カカシは情けなさと悲しさを止められなくなってしまった。
なんで、こんな。
始めはこんなじゃなかったはずだ、こんな、…
もっと優しく扱ってくれたのに、もっとお互いに交歓するものだったのに。

「あっ、あっ、う…」
「胸は平らだけどやっぱ感じるんだよな」
「っ、う、あぁっ、…」
「そういうとこは女の子みたいだね」
「あ、あ…」
「あと、ほらこうやったら」

締まるとことか?
言いながらナルトは思い切りカカシのその場所を突き上げて、
カカシは泣きながら小さく叫んだ。

「なぁ、もっと優しくしてほしい?」
「先生、俺に優しくしてほしい?」
「じゃあ、もっと女の子みたいになってよ、声も高くしてみせて。
体もこんなガリガリじゃなくってさ」
「胸もこんな平らじゃなくって、尻だって女の子はこんなに骨ばってないよ」
「なぁ先生、できる?」
「できる?できたらもっと優しくしてあげる」

できるわけがない。カカシは男なのだ。
更に言えば、ナルトが最近抱いているような10代の体でもない。
忍なのだから身体年齢は同じ年の人間より若いはずだけれど、
それでも肌の具合も関節の動きも、それなりに変わってくる。

なんで、ナルトはそんなこと言うんだろう…

突き上げるナルトは、下半身から来る快感の興奮も手伝ってか段々と言葉尻が強くなる。

「なんでゴムつけろとか言うの、子供なんかできねぇだろ」
「こんな硬い体なんだからさ、女みたいに柔らかくなくて」
「ここにだって俺と同じもんついてんだろ」
「腹だって、キレイに割れてるじゃん、先生、女の子は割れないよ」

もうほとんどカカシが男だということを責めているようなセリフを次々と紡がれて、
カカシは何を言われているのかわからなくなってしまった。
俺が男なのが気に入らないのか?こんなに体が固いから?
乳房がないから…女じゃないから?

感情に思考が追いつかず、カカシは必死にナルトの本意を探ろうとしながら、
一方でナルトの言葉に傷つけられるままに目に涙の膜を張った。
柔らかくないから。乳房がないから。子宮がないから…
ナルトはまだカカシを言葉で削り続ける、カカシの顔もきっと見えていない。
女の子みたいじゃないから、ゴムをつけてくれない、電気を消してくれない、
ナルトは言葉をぶつけながら荒々しくカカシを抱きしめた。強すぎる力にカカシが噎せる。
優しく抱いてくれない、まるで俺を憎んでるみたいに、
俺が女じゃないから…

瞬間に上がった白煙に、何事かとナルトが動きを止め、次いで大きく目を見張った。

「ちょ、先生、何してんの!」

ナルトが抱きしめていたカカシの体は、さっきまでは確かにカカシだったその体は、
突然やわらかい曲線を持ったすべすべとしたものに変わった。

「カカシ先生!」

カカシはナルトの肩口に顔を埋めたまま肩を震わせている。
嗚咽が漏れる度に乳房がゆらりゆらりと揺れた。
カカシの体は、女性に変化したカカシの体は、色だけは元のカカシと変わらない白さだった。

「っ、先生!先生、ごめん、俺ってば、ごめん!」

先ほどまでの言葉が嘘のように、目を見開いたナルトはカカシを思い切り抱き締めて
ごめん、ごめんと繰り返した。

「ごめん、先生、あんなの嘘だ、嘘だってば!」

嘘だから、なぁ先生、戻って!

ほとんど悲痛な声で叫ぶナルトの言葉をぼんやりと聞きながら、
カカシは穿たれたままの腰を揺すらせた。途端に、ナルトが声を詰まらせて熱い息を吐く。

「っ、先生!」
「…こうか?」
「先生ってば!」
「それから、こんな…感じ…か…?」

その時の女性の動きを模倣するように体を揺するカカシを、ナルトは涙目で抱き締めた。

「ごめん、先生、ごめん、俺バカなこと言った」
「ナル…ト…」
「いいんだってば、先生はそのままでいいんだ、俺だって女になんかなれないんだから…
カカシ先生なんにも悪くないのに」
「ナル…」
「先生、ごめんな、先生…」

ナルトが抱き締める体は柔らかくて、すべすべとしていて、細くて小さかった。
そのことにまたナルトが泣きそうになる。

「ナルト」
「俺は、」
「男前になったね、ナルト、お前がモテるの、俺分かるよ」
「俺は女なんか抱きたくないのに」
「女の子が放っとかないの、分かる」
「嫌だって言ったら」
「なのにさ、ナルト、」
「カカシ先生を、取り上げるって」
「なんで」
「俺から取り上げるって、言うんだ…」
「なんで俺なの、ナルト…」

なんで女じゃないとダメなんだってば。言ってナルトは大粒の涙を零した。

子供は作るなと言う。
俺は九尾の器だから、早い話何が生まれてくるのか里の人間にも------------
その頂点に立ち、医療技術でも最高峰である五代目火影にも、予想がつきかねるのだ。
ナルト、お前は孕ませてはならない。
それは分かる、仕方のないことだ。
そんな覚悟は俺はずっと腹に飲み込んで生きて来た。孕ませてはならない、九尾だから。
それならば、俺の恋愛は正しいじゃないか。
カカシ先生は男だから、中で出そうが先生が感じまくろうが、子供なんてできない。
(子供というのは、セックスで物凄く感じた時にできるんだって、遊里の姉ちゃんが言っていた。
だから、あたし達は客に感じちゃいけないのさって…でもその姉ちゃんは結局孕んでしまって、
ほおずきで堕胎していたが。)
でも先生と恋愛するのは駄目だと言う。
なんで駄目なんだ、自慢じゃないが----------------全く持って大きな声では話せないが、
忍里のモラルときたらそれはひどいものだ。
理由は簡単だ、いつ死ぬか分からぬ身だから。
そんな中で生きているから、大概のことには寛容なのだ、任務さえまともにこなすのならば。
加えて俺達は、つまり上忍は、人を殺す仕事を避けて通ることが出来ない。
人殺し、それは異様な興奮だ。
緊張と冷静と生々しい匂いと…その間に剥き出しで放り出される尖った神経を飼いならすために、
セックスはちょうど良いのだ。薬物は危ない、薬とは毒だから俺達の忍の腕をゆるやかに殺す。
だから里はむしろセックスによる興奮の発散を奨励する、そんな環境にモラルなどあるものか。
俺達にとって同性同士のセックスなどタブーでも何でもない。
でも恋愛は駄目なのだと言う。
セックスは良いのに。
恋愛は駄目だ、お前はカカシばかり抱いているから少し偏っちまってるんだ、女も抱け。
綱手のばぁちゃんは真顔で言った。
そんなことを言って俺は女を抱かされるようになった。ちょうど半年ほど前からの話だ。
抱けと勧められる、などというものではなくてそれは里長の命令だった。
そして気に入った女があれば恋愛をしろと言う。
お前みたいなのは、好きにならないと結婚できないんだろう?
冗談じゃない、俺はカカシ先生が好きなんだ。
けど俺は、口ではそう言うのに俺は勃っちまう。だってまだ17なんだから仕方がない。
女の子は好きだ、柔らかくて甘くていい匂いがする。
でもそれだけだ。
それだけだ、俺が欲しいのは、俺が好きなのは、
手に入れて滅茶苦茶に甘やかして思い切り酷いことをしたいのは、
カカシ先生だけなのに。

「ごめんな、先生」
「んん、いいって…」

まだ少し赤い目をしているカカシを、労わるようにナルトが撫でた。
その体は元通り男のものに戻っていて、
ナルトはやはりこのままのカカシが好きなのだと改めて思う。

「俺さ、なんか…」
「うん」
「先生が女だったら結婚できるのに、とか」
「うん」
「バカだな、俺、先生が好きなだけなのにな、俺…」
「……」
「……」
「…泣いちゃ、だめだよ、ナルト」
「先生…」
「うん」
「先生、好きだよ、先生、好きだ」
「うん」

今度はナルトが赤い目をしてカカシの胸に倒れこんだ。
カカシはその黄色い頭を大事そうに抱え込んで、彼の師に良く似たその金髪にキスをした。

里の重石に。
そう、五代目は言った。
大蛇丸が死に、
乱れていた各里の同盟は信頼を取り戻し、
多少は弱体化しつつも木の葉の里は機能を回復させた。
争乱が終わり安定を目指す時代に入る。
安定を象徴する分かりやすいもの、それはまず里長だ。
里の力強さ、それは若く、強く、聡い火影に投影される。
象徴であるもの、それは象徴としての役割を全うしなければならない。
ナルト、お前を次期火影に任命する。
そう、五代目は言った。
ナルト、お前が象徴としての責を果たすことができるなら。
そう、五代目は言った。
ナルト、お前が妻帯するならば。
そう、五代目は言った。

「火影目指すのなんてやめて」
「うん」
「先生と、二人っきりで生きていくってば」
「……うん」
「なんで笑うんだってばよ」
「ぶっ、ゴメンゴメン、お前そういうの、似合わないねェ」
「なんだよ、喜んでくれねぇの」
「嬉しいよ」
「棒読みだってば」
「あはは」
「なぁ」
「うん」
「もし、ほんとうにさ」
「うん」
「俺が、先生だけになったら」
「うん?」
「全部捨ててしまって、先生だけ選んだら」
「……うん」
「その時は、俺がカカシ先生以外に、女と寝たりしたら--------先生、妬いてくれる?」


「…うん、その時はその女を殺しそうになるぐらい、嫉妬するかも、なんてな」


それから先生は変わらない笑顔で続けた。
ナルト、お前が簡単に夢を諦めない人間だったから、俺はきっとお前を好きになったんだ。
途方もない夢を、諦めずに追いかける人間だから。
簡単に、夢を捨てることのできない人間だから。

先生の髪の毛は汗で湿っているのにぴょこっとはねていて、
俺はそれが、今朝見た小鳥の頭みたいだなと思った。

俺が衝動を初めて覚えたのは12の頃で、
それから3年間の修行の中に童貞を捨てて戻ってきたというのに、
カカシ先生を前にした時俺の衝動はもっと強く俺を掻き回した。
口説いて口説いてキスして泣き落として懐いて脅して抱いた。
カカシ先生を手の内に入れて、俺はそれを大事に抱えて生きて行こうと思った。
大事に大事に抱えて、俺達のどちらかが人生に蓋をする、その直前まで、
俺はカカシ先生を離さずに生きていこうと思った。
やっと先生を手に入れた、他の欲しいものも全て手の内に落ちてくるはずだと思った。
俺はまだ16だった。

あの日、俺がカカシ先生を泣かしてカカシ先生がその理由を知った日から、二週間が経つ。
カカシ先生はもう里内にいない。
知ってる、遠征任務を受けたのだ。1年や2年で帰って来ることなどできないような。
空は晴れていた。今週一週間は晴れるだろう。

空には何と言う鳥なのか分からないけれど、頭のてっぺんがぴょっこりはねたような白い鳥が、
2,3羽連なって飛んでいる。
その鳥の頭がカカシ先生を連想させて、俺は思わず笑ってしまった。
青い青い空に白い鳥が雲みたいに映えて、勢いよく風を切って飛んでいる。

それは身軽く木の枝を移動する、カカシ先生みたいだった。
ナルト、ナルト。
カカシ先生は俺を呼ぶ時、いつも、とてもやさしい顔をした。






















俺は今日誕生日を迎えた。18だ。



明日は、俺の火影就任式だ。






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end