2008/1/7 ■ ながきよの

※三代目火影が(r



「あけましておめでとうございます」
「なんでお前がここにいんのよ」
入り口に畏まって新年の挨拶を述べたテンゾウを丸きり無視して、
カカシは胡乱な視線を返した。
「もちろん、新年のご挨拶にですよ」
今日は一月一日、元旦だ。後輩から先輩にお年始をと言われて、
何もおかしいことはない。
「…挨拶って、こんな時間にか」
それがお日様の出ている間、せめて夕食の時間ぐらいならば。
テンゾウが訪れた時間、時計は実に午後十時を指していた。

「帰れ」
「イヤです」
「何しに来たんだ」
聞くのも面倒くさいが一応は聞かねばなるまい。
もしかしたら自分の予想とは違っているのかもしれないし…
そんな希望を持って一応は聞いてみる。一応は。
「先輩」
「何だよ」
「今日は姫始めですよ」
言うと思った……。
背中じゅうで脱力して、それからカカシはテンゾウを殴るべきか
茶を出してやるべきなのか、少し考えた。

「お前ってさぁ」
「何ですか」
「発想がまるでオヤジだよな」
「ボクよりオヤジの先輩に言われたくありません」
「…………」
「…ウソです」
「そのオヤジがひとつ教えてやるけどね」
「何ですか」
「元旦の房事は老けるからやめたほうがいいんだぞ」
「どうせ『耽るから』なんでしょ。正月の猥談は運がつくんですよ」
「お前が猥談で済むか」
「だから、試してみましょうよ」
そりゃお前の自制心をなのかオレの忍耐力をなのかどっちだ。
「もう、姫始めじゃなくてさっさと寝て初夢にしない?」
「ええ、だから早く寝ましょう」
だめだこりゃ。

「で、結局こうなるわけだ…」
抗議する気力もなくなって、カカシはテンゾウのされるがままに
体の力を抜いた。もう、いいや…
どうせこうなったら止まらないんだし…。
「先輩」
「何だよ」
「今年も、ずっと好きです」
ぶっ。
なんだそりゃ。
「…それは、どうも…」
まともに聞いてられない、という風を装いつつも
テンゾウの一言で、先程まで干し柿のようだったカカシの顔色は
はっきりと熟れた柿のように赤くなった。
「もう、ほら、ボクがひとこと言ったぐらいで
そんなに感じやすくなって」
「…オヤジ」
「心配だなぁ。他の人にそんなこと言われても付いて行っちゃ
ダメですよ。そんなこと本気で言うのはボクだけなんですからね」
行くわけないだろ、アホかお前は。
…と言いたいカカシは胸の突起をいじくるテンゾウの指に
それどころではなくなった。
「勃ってる」
「寒い…から…っ」
「こっちも寒いから?」
言うなり握り込む指に、カカシは思わず声を漏らす。
「…正月なのに…」
出てきた台詞は間抜けなもので、カカシは言ったそばから後悔した。
「正月だからですよ」
「…お正月…は、…かみさまっ…が…っ来るんだ、ぞ!」
「お正月の神様ですか。神様でも見られたら興奮します?」
「アホか…っ」
「まぁ神様でも、見せてあげたらいいじゃないですか。
縁起がいいですよ」
アホか!
叫びたいはずのカカシの声は、甘い音を紡ぐばかりで言葉にならない。
「…っ…あっ…」
「先輩、可愛い、先輩…」
「バカ、あ、ちょっと、待…」
その後は、声にならなかった。

「…正月エッチは縁起がいいんですかね」
「…阿呆か。この国で房事が縁起がいいとされるのは、
子宝が授かる行為だからじゃわい。ホモに子供が産めてたまるか」
「ですよねー」
ぼそぼそと話しながら、イルカと三代目火影は目で合図を送りあった。
どうする?
もう帰る?
帰りたい…
お互いの心のうちが読めるようである。もはや合図でも何でもない。
「しかしのう、あやつらに受付所に立ってもらわんと
わしらが帰れんしのう」
「ですよねー」
「いつもならここで割って入ることなど屁でもないわけじゃが」
「…だったら、お願いしますよ、火影様」
「じゃが、わしとて新年早々初めに見るものが男同士のナニかと思うと
縁起も担ぎたくなるわけじゃ」
「…火事よけになるかもしれませんよ。普通に考えて女相手の時より
濡れてるわけですから。なんつって」
「なら、お前が行け」
「嫌ですよ、そんな殺生な」
うろうろとカカシの部屋の前で迷いながら、どうしたものかと
三代目火影とイルカは考え込んだ。
そうしている間にも、カカシのあられもない声が聞こえてくる。
「なんでわしは、この歳でこんなにも耳がいいのかのう…」
うつろな目をして火影が言った。隣で気の毒そうにイルカが頷く。
「…当番表、見てくれてなかったんですかね」
「わしがこの歳で年越しの受付をこなしたというのに…」
テンゾウとカカシは気付きそうにもない。

「あっ…もう、抜いて…」
「ダメです」
「っ、ね、なんか外、気配しない…?」
「そんなこと言ってごまかそうとしても、ダメですよ」
「あ!ヤダ!やめて……、っ、本当に、何か…あぁっ…」
「お正月の神様ですよ、きっと」
またカカシの声が部屋中を埋めてゆき、熱いほどの息遣いが
お互いを温めた。

「お正月の神様ですって」
「罰当たりめ…神様がいらしてると思うなら
一旦中止してお出迎えせんかい」
「見せてやればいいとか何とか言ってましたよ」
「あやつはマトモだと思っておったんじゃがのう…」
その部屋の外で、色々と寒くなりながら火影とイルカは
立ち竦んでいた。

大晦日から降り続いていた雪はとうに止んでいる。
静かな路地にかすかに残った雪を、月がゆるりと照らしながら
少し暖かな元旦の夜が更けていった。